2014/11/27

地域「較差」に関するコモンセンスのある最高裁判決文

毎日新聞の記事を読んでも,裁判官が何をどう考えているのかわからない。最高裁にアクセスしたら判決文が読めた。実に判り易い日本語で書いてある。昭和22 (1947) 年以来の歴史的背景も踏まえ,判決に至った考えが明瞭に述べられている。しかし,法理に立てば,こうもラジカルな判決になるのかと驚かされる。衆院に比べ参院の無策について言及している。裁判官の悩みも判決文から伝わってくる。コモンセンスのある妥当な判決だ。

見直したな最高裁。これまで食わず嫌いだったか。

それに引き換え,判決文の「較差」を毎日新聞が意図的に「格差」にしているのは悪意を感じる。これも判決文を読まない限り,わからない事であった。判決文は横書きの pdf ファイルである。コンマ句点の横書き判決文を,語句を改変,コンマを読点に変更し縦書きにする新聞は固陋だろう。意外にも,陋習は新聞放送業界にあって世直しを阻害しているのかもしれない。

以下引用
長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っていることなどに照らし,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した。

基本的には,人口の少ない一定数の選挙区を隣接区と合区してその定数を削減し,人口の多い一定数の選挙区の定数を増やして選挙区間の最大較差を大幅に縮小するというものであるところ,同協議会において,同年5月以降,上記の案や参議院の各会派の提案等をめぐり検討と協議が行われている。

憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。

しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。

参議院議員の選挙制度の変遷を衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると,両議院とも,政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上,都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と,より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ,その結果として同質的な選挙制度となってきており,急速に変化する社会の情勢の下で,議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割がこれまでにも増して大きくなってきているといえることに加えて,衆議院については,この間の改正を通じて,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として,選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることにも照らすと,参議院についても,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に,更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである

昭和22年の制度発足時には2.62倍であった選挙区間の最大較差が,昭和52年選挙の時点では5.26倍に拡大し,平成4年選挙の時点では6.59倍にまで達する状況となり,平成6年以降の数次の改正による定数の調整によって若干の較差の縮小が図られたが,5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。

都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であるという限度において相応の合理性を有していたことは否定し難いものの,これを参議院議員の各選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を各選挙区の単位として固定する結果,その間の人口較差に起因して上記のように投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続している状況の下では,上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっているものといわなければならない。

少数意見
憲法に参議院の存在意義を都道府県等の地域性に置く旨の規定は存在せず,第1回の参議院地方選出議員の選挙において生じた最大較差2.62倍という投票価値の較差は,国会が参議院の独自性を都道府県等の地域代表性に求めた結果であるということもできないと解される

我が国は連邦制を採用していない単一国家であり,国会は,憲法の条文及び投票価値の平等などの憲法の要請や趣旨に反しない限り,立法裁量の範囲内で,いかなる二院制を構築するか,参議院にどのような独自性を持たせるか等の制度の設計が可能であり,投票価値を等価にしても選出方法を似通ったものにしない工夫をする権限も有するのである。

裁判官木内道祥の反対意見
一票の価値の平等を実現するための具体的な選挙区の定め方に関しては,もとより新しい選挙区の在り方や定数を定める法律を定める際に国会において十分に議論されるべき事柄であるが,都道府県又はこれを細分化した市町村その他の行政区画などを基本単位としていては,策定が非常に困難か,事実上不可能という結果となることが懸念される。その最大の障害となっているのは都道府県であり,また,これを細分化した市町村その他の行政区画などもその大きな障害となり得るものと考えられる。したがって,これらは,もはや基本単位として取り扱うべきではなく,細分化するにしても例えば投票所単位など更に細分化するか,又は細分化とは全く逆の発想で全国を単一若しくは大まかなブロックに分けて選挙区及び定数を設定するか,そのいずれかでなければ,一票の価値の平等を実現することはできないのではないかと考える。


参考
裁判例情報
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