2015/10/31

やはり TPP は関税同盟

DOL で「TPPが自由貿易協定ではなく、経済ブロック化協定であることだ。TPPの本質は、自由貿易圏を広げることではなく、域外との貿易を減少させることなのである。そのために、資源配分上のさまざまな歪みが生じる。上で見た原産地規制による輸入や投資の歪みは、その典型例だ」とあった。やはり,TPP は関税同盟だ。

かつて,日本は英米の関税ブロックに苦しみ大陸進出に国家の命運を賭けたことを思うと,今は衰退しつつも海洋国家として歩む途を選んだ。昔,ドイツが領邦国家の時代,バルト海北海に面した自由都市のハンザ同盟があった。その中心のひとつがドイツの殖民都市のケーニヒスベルグがあった。後に強大化したプロイセンの重要都市になったけれども,揺籃期のプロイセンはポーランド王国の諸侯の一人に過ぎなかった。領民のなかから農民次男を徴兵し,巨人兵の閲兵と音楽が趣味のちっぽけな候国が後に,子孫がパリで帝国を名乗り戴冠したが,一次大戦で崩壊した。当時,英独間の交易は盛んでドイツ人は英国と戦争になるとは思っていなかったが,バルカンの民族紛争が大戦に至った。それは各国の集団的自衛権の発動によるものだった。といっても,日本で論争になる集団的自衛権も,戦争が当たり前の欧州では自明過ぎて議論にもならない。ケーニヒスベルグを生涯離れる事のなかったカントは恒久平和について思考した。古代ギリシアのプラトン同様,人間の理知だけでは平和を維持できないようだ。万物は流転する(闘争は文明の母)というヘラクレイトス流の思想が現実に即しているのかもしれない。日中が互いに貿易依存度が高いから戦争にならないの論理は成り立たない。依存度が高いからこそ,争いも生まれる。ロシアと英国王の后はドイツ中小諸侯の娘が多かった。自国の貴族の娘もしくは大国の皇女を娶ると,王権への介入が嫌だからだった。今でこそ,ドイツはEUの盟主のようになっているけど,貧しいドイツ貴族の娘はロシアとイングランドの皇太子の目に留まると,皇后になれる夢があった。現エリザベス女王がハノーバを訪問すると,故郷へ帰ってきましたとスピーチをするそうだ。現イングランド王家の祖先はハノーバ出身だからだ。それでも,英独は二度に渡り激烈な欧州の覇権争いをした。

外交関係は自国が譲歩し過ぎたかなと感じるくらいがいい。日本は列強と関税自主権のない不平等条約を締結した(安政の5箇国)。条約改定の最後の交渉国が合衆国だった。お隣の韓国は気の毒なくらい,合衆国に譲歩して FTA を締結した。多国間交渉は大国の圧力を緩和する効果がある。それにしてもオセアニアの小国ニュージーランドは頑張った。

シリアイラク危機,ウクライナ情勢の緊迫化,泥沼のアフガンをみると,今の合衆国に極東危機にどれだけ関心があるのか,疑わしい。歴史を顧みれば,欧州の危機が極東の危機に直結した。日独の経済力は強大化したけれど,軍事的プレゼンスは著しく低下している。ドイツはオランダがトルコに売却予定のレオパルト戦車を取得し,更新改修をはじめた。閉鎖した戦車の生産ラインを復活させるかもしれない。日本は海保の拡充を決定した。ユーラシアの両端でかつての敗戦国による軍拡がはじまりそうだ。ドイツには NATO の多国間軍事同盟があるけど,日本には2国間の日米安保しかない。

シナ海の航行自由がなくなると,中東からの石油が滞る。原発は中東の石油リスクを軽減する。原発事故による汚染被曝リスクと有事リスクのどちらが高いか自明ではなかろうか。ドイツの東方リスクに相当するのが日本の朝鮮有事だろう。朝鮮戦争は合衆国に日本をフィリッピン並みの農業国に留めとく計画を工業国としての再生を認めさせる契機になったけど,合衆国はどこまで極東にコミットするのかいまいちわからない。韓国のようになにがしかの権益を合衆国に提供しなければ,安全保障は得られないのかもしれない。かつて,中国人の同僚が米軍基地のある日本は独立国ではないと言っていた。米海兵はグアムオーストラリアの線まで撤退する。考えようによってはシナ海は西欧海洋国家が進出する以前の状態に戻る。父の話では,日米海軍が死闘を繰り広げている最中でも,中国のジャンクがシナ海を往来していたようだ。ただ,今回は明帝国以来の海洋進出だ。明朝の海洋進出を支えたのはイスラム商人だった。中国共産党がどこまでムスリムを取込めるか。地政学的には昔のペルシャ(イラン)がキーになりそうだ。

シナ海での米中による鞘当はどうも茶番のような気がする。大筋は米中首脳会談で決まっているのだろう。米中間の密約を探るのが外務省の仕事なのだが,どうなのだろう。逆に外務防衛官僚から合衆国に機密がじゃじゃ漏れ状態が実情なのかもしれない。否,日本に機密はないのか。沖縄の密約は外務官僚にも通知せず,佐藤首相個人の机の抽斗のなかにしまいこまれたままだった。

いかに中国市場が巨大であろうと,日本産品は環太平洋から全世界に向けて交易を進めていくべきだろう。戦前戦後を通じて日本の絹製品は世界で愛好された。それが精密電子機器にかわり今では自動車になった。しかし,このままだと売る産品のなくなった英国のようになるのも確かだろう。

参考
TPP合意で加速する中国の独自経済圏形成を危惧する


追記
肝心な事を書き忘れた。ハンザ同盟の交易範囲の東端は今のペテルベルグ,西端はロンドンで,世界大戦の当事国と重なる。第一大戦までは大英帝国の覇権を語られる事が多いが,それは海洋交易に限られたもので,ロシアの膨張が世界を不安定化させていた。海洋進出を英国に遮られたドイツ帝国は東方へ後背地を求めた。それは自国の歴史がドイツ騎士団に遡るという神話に彩られ,時代遅れの東方殖民を正当化した。安倍首相の明治への追慕もヒトラーの過去の栄光に拘る思考様式と同じだろう。現代日本人は戦前のドイツ人程度のレベルなのだろうか。文科省が戦前と同じ画一教育をいまだに続けているせいもあるかもしれない。

勃興してきた中国の綿産業と競合し,苦しくなった戦前の日本は軍事力に頼り,しまいにはドイツにまで期待するようになってしまった。日本同様,遅れて台頭してきた中国が武力を背景にするのは戦前の日本と同じにみえる。緩やかな関税同盟の TPP は中国に何をもたらすか。世界経済は悪化する一方だろう。昔とは異なる世界知識のブロック化が始まるかもしれない。

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