2013/08/14

生体解剖事件と首相の罪意識

日本は B-29 の搭乗員を生体解剖した。無差別爆撃をする搭乗員は戦争捕虜に該当しないとの論拠がサイトに結構あり,驚いた。ドイツは日本を遥かに上回る無差別爆撃を長期にわたり受けたけど,B-17,ランカスタの搭乗員の生体解剖を聞いたことがない。

日本がいつから,捕虜の取り扱いについて現場が暴走するようになったのか。米英は開戦後,直ぐに捕虜の取り扱いについて日本に問い合わせ,外務省は批准はしていないけどジュネーブ国際条約を遵守する旨,通知した。第一次世界大戦での日本陸軍のドイツ軍捕虜の取り扱いに対する給食は自国兵より好待遇であった。太平洋戦争では待遇が悪化しただけでなく,虐待が横行するようになった。どこの国でも捕虜の管理は軍の管轄下にあった。ソ連の捕虜の扱いも酷かった。第一次世界大戦と太平洋戦争の間に軍内部に何かが起きた。満州事変,2.26事件以降,統制がなくなり誰が陸軍を統御しているのか判然としなくなった。陸軍大臣がお飾りになってしまった。この事が,「捕虜は適当に処理せよ」につながるのであろうか。陸軍参謀総長が適当に処理せよと命令したとは考えづらい。そもそも,捕虜の取り扱いについて,捕虜を得てから中央に問い合わせているのも不自然だ。戦争をしている限り,捕虜が発生するのは自明である。軍官僚は,従前の捕虜取り扱い規定を無視する事にしたのだろう。

捕虜を確保したとき,陸自は,適切な取り扱いができるかどうか。戦前同様,マニュアルはあっても無視するかもしれない。九大の捕虜虐殺では,「岩山教授は731部隊が中国でおこなった人体実験の資料を入手しており,731部隊と同じ考えが教授の根底にあったと思われる」とあり,軍医だけでなく,帝大医学部も捕虜虐待を当然と思っていたようである。

陸自が第一次大戦時のような捕虜取り扱いをできるのかは,人道主義とかは無関係のように思える。多分,自己規範が希薄なのであろう。他の誰か上位にある存在の監視がないと,法規定を無視するのは厭わないのだろう。極論すれば,国連と米国がOKといえば,どんな事でもやってしまうのではないか。ヒューマニズムはわかるようでわからない。人道的捕虜の取り扱いが酷かったのは日本とソ連だった。待遇が良くないけど,中華民国とインドは日本兵を生体解剖したりはしなかったと思われる。

日本とソ連は残念ながら,軍組織は上に行けばいくほど,人倫は劣化していたようだ。どちらも国家主義と共産主義の違いはあれ,官僚が総力戦を指導していた。それでは中華民国とインドはなぜ酷くならなかったのか。中国は官僚国家の長い長い歴史がある。日ソと中印の違いは「法」の精神ではないかと思えてきた。中国の統治を人治主義と軽蔑する風潮があるが,法理根拠は常に明らかにしている。そうでないと統治できないのであろう。インドは歴史自体が「法」であったうえに,イギリスの法治が長く根付いた。

ロシアは西欧化されていそうで,プーチンの鶴の一声で行政が動いているように見せている。実際の官僚機構は面従腹背なのかよくわからない。日本の行政が官僚の恣意的通達で動いている事は諸外国に良く知られている。これは江戸期以来の歴史的なものでどうにもならない。自衛隊もどれだけ防衛官僚をコントロールできるかだろう。いくら,捕虜規定を整備しても,日本の場合,紙切れだった。戦闘とは,不安恐怖のなか,情動を抑制してルールに従い行わなければならない。

大和魂は余り役に立たず,弊害の方が大きいだろう。そう,戦争とは何万人が死のうと,冷静に継続しなければならないのだ。突如,原発の使用済み核燃料施設がテロにあった場合,安倍首相がその状況下において適切に防衛官僚をコントロールできるのか。無視されるだけではないか。尖閣竹島とか煽って,優先順位を間違えてはいないか。

生体解剖事件が起きたのは敗色濃厚な5月であった。沖縄戦の最中であった。鹿屋知覧からは特攻機が飛び立っていた。朝日新聞が5月9日にドイツの無条件降伏を報道している。後知恵だが,このとき戦犯容疑を考え付かなかった精神状態だった。連合赤軍,オウム真理教と同じように全く罪の意識はなかったのであろう。この3者に共通なのは,高等教育を施されたインテリであった。いわば,ハンニバルのレクター博士のような人物だった。防衛官僚からどれだけ,このような人物を排除出来るか。お詫びすらできない,罪の意識の薄い安倍首相には到底無理だろう。やはり,合衆国政府に首相をコントロールしてもらうしかないのだ。

蛇足:
毎日新聞のドイツ人インタビューによると,「ドイツの裁判所は1958年以降,自国の戦争犯罪を告発,6500人が有罪」になったそうだ。太平洋戦争史のライター秦氏によると,日本の文官の間には軍事官僚を厳しく戦犯で裁く幻の計画があったそうだ。最後の陸軍大臣下村の抵抗とGHQが乗り出してきたため止めたそうだ。この種の裁判を設置しても,果たして帝大教授の戦犯を裁けたかどうか疑問だな。この日本独自の軍人を裁く裁判では,おそらく文官の岸信介が裁かれる事もなく,そうすれば安倍首相も祖父の罪に悩む事も無く,お詫びの感情も持てたのかもしれないと思うと歴史とは因果なものだ。

ドイツの6500人のなかに多分,ナチスのゲシュタポも含まれているのだろう。日本では憲兵と特高警察がそれに該当する。昭和天皇も,東条英機が憲兵を重用したのが良くなかったと語っているが,両者は裁かれる事はなかった。防衛官僚も憲兵の復活を望んでいるだろう。憲兵があると,法務省および総務省と対等になれる。満州事変のように,統帥を犯しても軍法により裁かれないという後ろ盾が欲しい。

満州事変の暴走に所詮,紙切れの明治憲法は機能しなかった。陸軍の目的は外国との戦争ではなかった。国内の政治権力が欲しかったのだ。それは今の防衛官僚も一緒だろう。アメリカはそのあたりを熟知していて,その象徴が沖縄であり,従軍慰安婦だったりする。これらに関して,米中の間で暗黙の了解があるのではとの野坂昭如の推測は多分,当たっているだろうと思う。権力の犯罪を裁くのは何処の国でも難しい。ドイツの場合は,戦犯がゴロツキ集団のナチスだったから可能だったともいえる。国内最良の教育を施された官僚の戦犯をどう裁けばいいのか。これらのは犯罪は違法ではないので多分,「神」を提示しないと不可能かもしれない。日本の場合,天皇の名において断罪すれば,この種の戦犯は防げるかもしれない。これに逆らえるのは公明党と共産党くらいしかないだろう。天皇を誰が掌握するかが,いつの世でも重要だ。天皇は宮内庁長官の示した文書をよむだけだからね。恐ろしいな,日本の官僚機構は。

ドイツ国防軍将校団はナチスが政権をとる前は冷淡だった。ヒトラーは国防軍の反乱を心配して親衛隊を軍事組織にしたけど,さすがに空軍海軍まで手が回らなかった。日本の場合,空自に異様なグループが存在しているようだ。さすが,海軍航空の特攻を主導し,特攻機桜花の計画にかかわった参謀が空自幕僚長にまでなっただけの事はある。彼の意志を受け継ぐ指揮官が育っているのだろう。後は,領空侵犯を名目にいつ誰が暴発して交戦するかだな。今の,南西航空混成団司令は大丈夫かな。中国韓国軍には石原莞爾のような人材が登用される可能性は皆無だが,何と言っても武士の歴史のある日本だ。杞憂になればいいが。軍事に天才はいらない。凡才が必要なのだ。凡才であれば,冒険する事もない。

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