2014/06/13

バトルオブブリテンの教訓

天然ガスパイプライン
中露が天然ガスの長期開発供給について合意し,契約に至った。布設するパイプラインの図を掲載する事もなく,毎日日経の解説は欧州の憶測を記事にまとめた感じでよくわからない。何故日本の関心が薄いのか考えてみた。毎日の論調は偏在する天然ガスの埋蔵量を示し,結果的にロシアの埋蔵量を過大評価をするなと言わんばかりだ。日本は液化したガス (LNG) を専用タンカーで主に中東から輸入している。液化するには加圧冷却が必要だ。国内の施設で LNG に海水をかけて暖めて元のガスに戻してガス管で配送する。パイプラインだとガスは液体のように粘性が大きくなく圧送に大きなエネルギを要しない便利なエネルギ源だ。中国にとっても中東からのエネルギ輸送は軍事的にリスクが大きい。北京や旧満州諸都市の家庭用暖房を石炭から天然ガスに変えるだけで大気汚染が劇的に改善するだろう。私が子供の頃,暖房用燃料は石炭で発生するスモッグは酷かった。現代日本の暖房はもっぱら灯油と電力だ。以前,プロパンガスの場合だけれども,電気ガス石油のエネルギ単価を計算したら,ガスは電力より割高だった。それは輸送コストにつきる。合衆国欧州にはガスのパイプラインがあたかも鉄道道路のように布設されている。日本は大都市だけである。都市毎にローカルなガス化設備があると思っていいのではないだろうか。パイプラインを布設すればそんな無駄がなくなる。北海道近くの樺太(サハリン)から天然ガスが産するけど北海道へのパイプラインがない。稚内海峡は潜水艦が潜航して通過できない程,水深が浅いにも関わらずだ。他方,欧州の北海バルト海には何本もパイプラインが布設されている。パイプライン布設は鉄道建設と同様,国家意思が伴わないとできないのだろうか。そんな事はない。明治時代の鉄道,大正の電灯布設は民間が担った。北方領土問題があるにせよ,官による規制が実現を阻んでいるのかもしれない。

日本・アメリカ・OECD欧州における用途別天然ガス利用状況(2010年)
日本欧州
電力63%33%35%
産業9%20%19%
民生28%47%47%


上表は震災前のデータだから,原発が停止しているので電力の占める割合はさらに高まっているだろう。日本では電力の信頼性が高くほとんど停電がないが,そのための労力は半端ではない。従って電力代は高いが,ガス代はさらに高い。都市ガスは安くできると思うが,競争原理が機能せず高いままだ。郵政省の利権だった電電公社の独占が崩れると電話料金は一気に下がった。電力の自由化も必要だろうが,ガスの独占は酷い。経産省の利権だから仕方がない。経産省の前身は商工省で戦前,国家統制経済の旗振り役だった。電力は本来,瞬間停電を起こすと支障のあるような制御通信用途を主体にすべきだ。暖房はガスで良いのではないか。日本システムは無駄な労力(コスト)が多すぎる。

巡航ミサイル
ドイツは2度世界大戦を挑み,敗れた。第一次世界大戦の主戦場は独仏戦線だった。当時の航空兵力は微々たるものであった。海戦には航空機は全く関与しなかったけれど,航空機の発達は目覚しく第二次世界大戦では空母戦力が決定的になった。軍艦の燃料も石炭から重油に変わった。ドイツは宿敵のフランスに電撃戦で勝利した。電撃戦とは内燃機関による機甲部隊と航空発動機による空軍との統合運用だった。フランスは走る大砲(戦車)と空からの爆弾で敗れた。戦車の脅威であった砲兵を空から叩いた。言わば航空機が大砲代わりだった。しかし,独ソ戦では補給が続かず,ドイツはソ連に敗れた。ともに航空機を駆使したが,ソ連には米国供与の大量の軍用トラックと量産性に優れた戦車があった。ドイツが敗れた背景には石油産業の立ち遅れと自動車産業が米国に比べ著しく劣位にあった事が原因とされる。

イギリスはドイツの侵攻をバトルオブブリテンと称される航空戦でしのいだ。当時,イギリスの工業力経済力はドイツに劣っていたけれど,海軍戦力とりわけ空母の優位は通商線の護衛に役にたった。両国の戦艦は航空機の脅威のため,北海すらパトロールできなかった。バトルオブブリテンを支えた立役者としてレーダがよく知られている。独英のレーダ戦も激しかったが,レーダ発振器の性能が絶えず,英国の優位を保った。そして,エニグマ暗号解読の情報戦でも有利だった。衰退しつつあった大英帝国の対応を日本も見習うべきだろうと思う。これからの国家間の戦争はピンポイントで重要施設をミサイルで破壊する事になる。弾道ミサイルは核弾頭でもない限り,破壊力はたかがしれている。やっかいなのは巡航ミサイルだ。米国が射程に制限を設けて韓国の巡航ミサイルの開発保有を認めたように,超低空を飛来するレーダ投影面積 RCS が通常の航空機に比べ小さな飛翔物を補足するのは非常に困難だ。実際,米軍はイラク侵攻の際,司令部と通信施設の破壊に使用している。ただ,飛翔速度の制限もあって航空爆弾のような貫通力はない。原子炉自体の破壊はできないが,日本の場合,地下に一時保管していない使用済み核燃料庫,変電所,レーダサイト等の剥き出しの暴露施設は簡単に破壊される。イギリスの防空システムの良さは,ネットワークにあった。個々の兵器はドイツに劣後であっても,代替予備を確保してしのぎ切った。その代表が胴体が布張り,武装が 7.7mm 機銃のハリケーン戦闘機であった。

巡航ミサイルは UAV の一種である。多数の無人機を相手に少数の高価な F-15 が迎撃しても甚だ効率が悪い。自衛隊は何%阻止できると目算しているのだろうか。島嶼防衛より,やるべき事は山ほどある。イギリスの欧州派遣軍はドイツ空陸の電撃戦に敗れ,本土に撤退した。国力がドイツに劣りながら,空海陸の優先順位が国を救った。島国は補給の難点はあるもののへぼい航空機でもその防空システムと優位な海軍航空戦力のおかげで国を守ることができた。

巡航ミサイルの原点はドイツの有翼爆弾V1だった。エンジンは構造の簡単なラムジェット,恐らく機体の姿勢制御は空圧だった。今は,ターボファンエンジンとデジタル制御に変わっただけだ。飛行士は超低空飛行はできない。それは恐怖心と反射神経の遅さに由来するタイムラグ 0.3 秒のせいで,簡単な現代数値制御を人間は原理的にできない。巡航ミサイルを迎撃するにはやはり UAV が有効だ。先進国の経済を混乱させるには通信,電力,交通を攻撃すればいい。辺鄙な離島の奪取は意味がない。ヒトの生命安全を保つコストが最も大きい。ビートタケシが普天間の基地が移動できなければ,住民を移動させればいいと言った。極論すれば,沖縄の住民を本土に移動して硫黄島のようにすればいい。どの途,今世紀末には地球温暖化のせいで,那覇市は気温が30℃を超える真夏日が1年の半分と倍増する予想だ。こんな環境でどんな日本人が農業とかの屋外作業に従事するのだろうか。軍人と役人は過酷な連続労務もなく耐えられるだろう。つまるところ台湾,沖縄はドバイ,シンガポールのような都市国家にならざるを得ないだろう。過酷な屋外労働は外人が担う。

華夷思想と資源安全保障
中国が高齢化社会になるまでの,ここ2,30年をしのげば,日本の防衛問題も沈静化するだろう。ただ,地球温暖化の影響で中国の水不足は致命的になる恐れがある。イギリスの科学誌 Nature が中国の水不足問題を特集したのは5年ほど前だっただろうか。昔,中国の皇帝が水利をコントロールできなると農民の困窮と反乱が王朝を交代させた。中国の農民が貧しくなるなんて程度の問題ではなく,生存できなくなり流民となり豊かな都市を略奪しながら,30年ほど肥沃な地帯に寄生する反乱が幾度となく起きた。常備軍は役に立たない。というのは兵士はもっぱら貧民の職業であり,軍団そのものが反乱に投じた。その王朝交代は,大概,異民族の侵攻が関与していた。これが華夷思想となった。たまたま,現代の日本が中国の夷になっている。皇国日本軍も食糧は現地調達で江南の都市を占領していた。南京は太平天国反乱軍の王都でもあった。日中友好平和条約も,長い中華の歴史からみれば,匈奴との屈辱的な条約と似たようなものか。中国と平等互恵の精神は有り得ない。それが中華思想というものだ。

中国の近代化の遅れによる平和ボケと明治以降の擬似立憲議会制国家が日本の立ち位置をおかしくしている。米国は朝鮮有事の際に,日本の後方支援基地が必要なだけで,もはや沖縄の戦略価値をさほど認めていない。横須賀,岩国,横田,三沢そして米国に飛来する弾道ミサイルを検知するレーダサイトが日本本土に必要だ。繰り返すが,米軍基地は日本防衛のためにあるのではなく,あくまでも米国防衛と国益のためだ。イギリスはドイツとの国力の差から宥和政策を採った。チャーチルは合衆国を戦争に引き込むためにドルを基軸通貨として認める事までした。日本の最大カードは「円」そのものだ。安価な巡航ミサイルさえ装備できない日本が,島嶼防衛とは不思議なものだ。確かに軍事とは警察権の一部だが,日本の警察がレーダ操作したり,情報収集のため中国官僚の買収はできないだろう。内閣は警察と軍事との線引きをグレーゾーンとして法制化しようとしている。しかし現代の軍隊は兵器を駆使し,非合法活動による情報収集(諜報)しなければどうにもならない。その両方ともできないなら,やはり自衛隊は実質,警察予備隊のままだろう。今の防衛予算配分は戦前の海軍軍備と同じ轍を踏んでいるような気がする。歪んだ日本の近代化は軍事に限ればその官僚の統御に失敗したようだ。同様に,中国の近代化も疑わしい。

さて,日中の友好国である合衆国とロシアはどんなオプションを考えているか。第二次世界大戦は独ソのポーランド分割から始まった。ウクライナは分裂の危機にある。チェコのような協議離婚は難しいか。中国の反日教育は天安門事件以降,盛んに行なわれるようになった。旧日本軍が中国に遺棄した毒ガス弾は最後の1発までその処理を日本政府は約束した。第一次世界大戦の激戦地における不発弾処理が現在も続いているので,旧日本軍の毒ガス弾処理も今世紀中に終わるとは思えない。日本は1925年にジュネーヴ議定書に調印したものの,その批准は1970年になった。日本軍は中国において細菌兵器を使用した。これら大量破壊兵器の中国(中北支)における使用は陸軍内部の闘争に勝利した統制派が推進した。その中心に東條英機がいた。毎日新聞は東條の曾孫の英利による神道がブームになっているの伝えている。ちなみに,中国戦線における毒ガス兵器の使用に関して米国政府の警告を受け,東條内閣はその使用を禁じた。警告とは米軍は日本軍相手に対抗使用を示唆したからであった。

連合軍による対日軍事法廷は対独に比べ穏便なものだった。ナチス思想は一掃されたものの,日本の靖国神社は温存された。特攻作戦がそれほど脅威ではなかったからであろうか。米国が真っ先に禁じたのは,石油精製,航空機研究そして核研究だった。米国における中国人コミュニティがユダヤ人に比べ,非力だったせいであろうか。何故,毎日新聞が復古した靖国思想に好意的なのか考えると,戦中,毒ガス兵器と細菌兵器の中国における特殊作戦を特務機関が報道各社を招待してPRした事にいきあたる。また,靖国精神の普及にも熱心であった。靖国精神の根本はわたくしを捨て楠正成のようにミカドに奉仕する事だった。海軍軍人の間では特攻作戦は湊川精神として理解されていた。しかし,これは建前であり近代の天皇は軍服をおめしになっていたけれど統帥に関与せず,公式の場(会議)では発言しないのがお約束だった。軍事官僚達は天皇を仏像のような拝む対象とみて君主とは思っていなかった。部下に無理難題を実行させるのにミカドは都合が良かった。

侵略戦争は勝者が敗者を裁くのは今も昔も変わらない。旧約を読むと,その敗者の苦しみと悲嘆に溢れている。大昔には民族 Nation の概念はなかったので,神々の戦いであった。コップの中の嵐のような内戦しかした事がない日本が外戦を行なったのは蘇我氏(聖徳太子),秀吉そして日清戦争以降しかない。東條英利のブログをみると,靖国神社を参拝はするが,特攻精神とか英霊についての言及はない。靖国神社は英語圏では War Shrine となっている。日本語の漢語表記は慣れ親しんでいるせいか,気をつけないといけない。人権に至っては Human Rights だ。特攻は Sucide Attack であった。漢語表記と英語表記のどちらが実体を表しているか。東條英利が「言霊」について言及している。

旧約のモーセの戒めもその類だろう。ただユダヤ族は捕囚を繰り返すと,黙示とか神の沈黙について思わざるを得なかった。天皇は毎日,祝詞をあげている。神道系の信者は毎朝,祝詞をあげているのが普通だ。創価学会だと念仏だろうか。アメリカのドラマを見ていると,家庭では食前での祈りはしなくなったようだ。ただ,教会に行く慣習は残っているらしい。日本の会社は社歌社是斉唱が結構,多い。明治以降の教育勅語の影響かもしれない。仏教系にしろ神道系にしろ日本の神には沈黙といった深刻さはない。日本人の素朴さというか底抜けの明るさは何に由来するのか。明るい民族が暗い「海ゆかば」を斉唱して,若者が特攻に殉じた理由がいまだに腑に落ちない。ただ,現代日本における過労死の判例をみると,日本人の精神構造は特攻(靖国)精神と密接につながっているのだろうと思う。やはりホスピタリティとコミュニティにいきつくのだろうか。ただ神道仏教の如何に関わらず,日本女性は子供を生まない自由を得た。これは契約の民思想からすると神への冒涜に近い。中国では国家権力が産児制限を行なっている。EU成立以前の欧州では,戦争の合間に平和があった。人口爆発が王朝を崩壊させてきた歴史がある。日本の耕地面積からすると,自由交易がなければ人口6千万人でも過大だろう。近代日本の膨張は人口増大が支えていた。

文字を持たない匈奴は歴史の闇に消えたが,中東の弱小部族連合のユダヤ族は律法の故に現代の各地に残った。中国も華夷秩序は求めても,日本人はユダヤ人のように他民族のように支配される事もなかろう。せいぜい尖閣と沖縄の割譲位だろう。朝鮮半島に限れば,古代においては漢王朝の殖民地だったから高圧的になるのも仕方がない。それが嫌だったら,英国の北米植民地であった合衆国の諸州に見習うべきだろう。数百年のイングランド支配からアイルランドが独立したのは 1920 年代だった。アイルランドは連合軍に参戦した歴史がないのに平和だ。

現代中国と,以前の中国と大きく異なる点はエネルギ問題と水資源問題だ。昔の中華文明圏は交易せずとも,自活できたが今では不可能である。戦前の日本のように暴走するかもしれない。イギリスのように宥和政策を採りながら,コストパフォーマンスを考えた軍事防衛計画を整備すべきであろうと思う。国際ルールから外れていった近代日本の軍事を司馬遼太郎は鬼胎と呼んだ。現代中国のプロパガンダはあまたの独裁国家の軍事と共通点がある(日本,ドイツ,ソ連)。どれもが崩壊したが,中国は当てはまらないかもしれない。過去の独裁国家は合衆国の敵視政策があった。一方,オバマ政権は中国をパートナーと称している。米政府のパートナーと日本が対立して何が出来うるのか考えてみよう。本土の中枢防衛をスカスカにして離島警察権行使に注力している防衛官僚は東條内閣の「絶対国防圏」と同じくらい愚かな営みだ。現代日本は兵士の供給源を絶たれたが,自衛隊のイラク派遣軍をみると変な部隊長がいて自滅作戦を実施する構図は変わらない。やはり,指導者の選抜原理が狂っているのだろうと思う。バカな軍事官僚も酷いが,エネルギも含めた安全保障に関する限り,日本官僚は中国官僚より劣位にあるようだ。 これが日本の民度ではないかと思う。

参考
JBPress 露中天然ガス供給契約調印、日本への影響は
JOGMEC 欧州天然ガス・LNGの現状と見通し
関連記事

コメント

非公開コメント